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身の回りから水資源の問題を考えよう 水ジャーナリスト 橋本淳司さん

2023年3月14日

 

身の回りから水資源の問題を考えよう

 

 水は、私たちが生きるために欠かせません。しかし今、地球温暖化の進展とともに、世界各地で水資源の不足や枯渇などの問題

が起こっています。SDGsの目標6は、「安全な水とトイレを世界中に」。「水ジャーナリスト」として国内外の水問題を取材して

きた橋本淳司さん(武蔵野大学客員教授)に、各国の人々が直面する状況などを聞きました。

 

 ──橋本さんが世界の水問題に目を向けるようになったきっかけは、バングラデシュでの出来事だったと伺いました。
   
 1990年代の半ばだったと思います。バングラデシュを訪れ、初めて水道のない地域へ行きました。そうした集落では井戸水を使

っていたのですが、井戸の一部が赤く塗られたり、赤字でバツ印が付けられたりしていたんです。毒性のある「ヒ素」に汚染され

た井戸の印でした。

調査をすると、井戸の10本に3本くらいが、そのようになっていることが分かりました。

僕は「住民の人たちは、ヒ素のことを知らないんだろうな」と思ったんです。子どもたちにも井戸の水を飲ませていましたから。

“危ないから、やめた方がいい”と話したら、“そんなことは分かってる。でも、これしか飲む水がないんだ”と言われました。

車もないし、遠くから安全な水を運んでいたら、経済的に破綻してしまう。だから、すぐに健康被害が出るわけじゃないし、この

水を飲んでいるんだ──こう言われて、大変なショックを受けました。そして実際、集落には、ヒ素中毒と思われる症状が体に出

ている人たちもいました。

また、他の町では、病原菌に汚染された水を飲んで下痢になったり、感染症にかかったりして亡くなった子どもたちもいました。

それまでは「おいしい水を味わう」といったテーマで世界各地を取材していたのですが、この時、水の問題で困っている人々のた

めに何か発信したい、と思うようになったんです。

 

 ──昨年、少年少女向けの『水辺のワンダー』という著作を出版されました。気候変動によって姿を変えてしまった各国の町の

様子などが紹介されています。
   
 冒頭の部分を、僕は子どもたちへの「謝罪」から書き始めました。これまで「100年後の水の未来を守ろう」と子どもたちに訴

えてきましたが、未来を「守らないといけない」ほどに水の姿を変えてしまったのは、僕たち大人の責任だからです。

産業革命以降、気候変動の原因となる温室効果ガスを排出してきたのは、私たち大人です。そしてこれまで、気候変動を止めるチ

ャンスがあったにも関わらず、十分な対策を取ってこなかった。だから「一緒に守っていこう」などと言う前に、謝らないといけ

ない──そう思ったんです。

 

 はしもと・じゅんじ 1967年、群馬県生まれ。アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。国内外を歩き、水問題の現状や、その解決方法を
メディア等で発信している。著書に『水辺のワンダー〜世界を旅して未来を考えた〜』(文研出版)など多数。

 

温暖化で雪が降らなくなった山
洪水など豪雨災害と戦う町──

問われるのは、自然と「共にある」ための哲学

     インド北部のラダックにある「氷の塔」。

     温暖化による水不足を解決するために造られている 

“発想の転換”で立ち向かう

 ──地球温暖化によって、世界の各地で水不足など深刻な問題

が起こっていますね。
    
 インド北部の高地にあるラダックという地域では、温暖化の影響で、山に雪が降らなくなりました。以前は、山に積もった雪が

少しずつ解けて川に流れ込むことで、下流に住む人々が、それを飲み水や夏場の農業用水として利用していました。

しかし、それが難しくなったんです。農作物を作り、売ることで生計を立てていた人たちは、生活自体が成り立たず、村を出て行

かざるをえません。

そんな状況に対応するために、ラダック出身のエンジニアによって造られたのが「氷の塔」です。

冬の間、高所にある川や池などの水源からチューブで水を引き込み、それを木で組んだやぐらの上で霧状に噴出させます。水は氷

の粒となって、やぐらに付着していきます。それを繰り返すと、数週間で大きな「氷の塔」ができあがるんです。巨大なものは、

高さ25メートル以上にもなります。

この塔は春以降、時間をかけて解けていくので、その水を夏場の農業用水などとして使えるようになりました。ただ、今後、さら

に気温が上がれば、氷の塔が解けるスピードも上がってしまうでしょう。問題の根本的な解決には、なっていないのです。

 

 ──温暖化による海水面の上昇で起こる浸水や、豪雨災害などに直面している地域もあります。
    
 例えばオランダは非常に土地が低く、国土の多くが海抜ゼロメートルよりも低い位置にあります。昔から高潮や洪水に悩まされ

てきましたが、特に近年は気候変動によって短時間に大量の雨が降り、何度も洪水が発生しています。

現在、オランダでは次のような形で水害対策を行っています。

一つ目は「制圧」です。高潮が入るのを防ぐ堤防や、川の水をコントロールするために開閉できる堤防を築くという方法です。

二つ目は「空間をつくる」という方法です。これは洪水などに備えて、あらかじめ水が流れるためのバッファ(空間の余裕)をつ

くっておくということです。この空間は、植物が増えるなど生物多様性を育む場ともなります。川が本来持っている自然の力を保

ち、治水を行うだけでなく、地域の環境も良くしていくことができます。

そして三つ目は「浮く」ことです。「水に浮く家」や「水に浮く町」をつくろう、という考えです。

洪水や高潮で水面が上昇しても、もとから家が水に浮いていれば問題ありません。いわば発想の転換です。これは気候変動だけで

なく、土地不足の問題の解決にもなります。

 

 ──橋本さんはジャーナリストとして取材を続ける傍ら、発展途上国での水施設の建設支援にも携わってこられました。
    
 2017年に、NPO法人の招きを受けて、インド中西部にある、少数民族ワルリの人々が住む村を訪れました。

彼らには自然を大切にする精神が根付いていて、現地では「ノコ」という言葉がよく使われていました。「もう十分」という意味

です。

食事をしていて、「もう少し食べる?」と言われたときなども、「ノコ、ノコ」と言います。食べ残しはしません。食べ物や生き

物を大切にしながら、自然に寄り添う生き方を続けているのです。

木や土、牛糞などでつくられた伝統的な家屋も、雨期には湿った空気を逃がし、乾期には暖かい空気をためるなど、自然とともに

生きるための知恵が生かされていました。

村人が、「ここでは問題があれば、皆で話し合って解決し、子どもたちの間にいじめは存在しない」と語っていた事も印象的でし

た。日本の生活と比べれば便利でもないし、経済的に豊かでもないですが、幸せを実感しているように見えたのです。

この地域では雨期と乾期の降水量の差が激しく、乾期には、ほとんど雨が降りません。人々は井戸水を使っているのですが、近年

は、井戸の水位がどんどん下がっています。水のくみ上げ量が増えていることや、木が多く伐採され、森林の水をためる力が弱っ

ていることが原因と考えられます。

乾期の水不足をどう解消するか──それが課題でした。ただ、水施設を建設するといっても、ワルリの人々の考えや暮らしに合っ

たものでなくてはなりません。そこで彼らの「自然を大切にする」精神に通じる、雨水を使った水タンクを設置することにしまし

た。

それまでは、雨期に降った雨水は全て流しっぱなしでした。しかし、雨水をためておけば乾期にも使えます。良質な「水源」であ

る雨水を活用することにしたのです。

自然は「克服するもの」ではなく、「私たちと共にあるもの」──こうした哲学を生かしたわけです。

 

「自分事」として捉えるために

 ──橋本さんは中国での節水教育担当者の育成や、日本の子どもたちへの「水の授業」の実施など、水問題への意識を啓発する

ための教育活動にも尽力されてきました。
    
 水問題は人間の行動によって起こるものであり、その行動に変化をもたらすのは教育であると思います。

一つ、忘れられない出来事があります。20年ほど前ですが、日本の小学校の授業で、世界の水問題について話をしたんです。

その後、学校の先生が子どもたちにアンケートを取りました。すると、“かわいそうな国があるんだなと思いました”みたいな感想

が、すごく多かったんです。その裏にあるのは“自分は関係ないですけど”といった気持ちです。

世界のいろんな状況を話せば話すほど、こうした反応になってしまう。やっぱり、知識を伝えるだけではダメなんですね。身の回

りの気付きや興味から始めないと、「自分事」として水の問題を考えられないんです。この時の授業は、僕にとって戒めになって

います(笑)。

 

 ──日本では、安全な飲み水を容易に確保できる状況が整っています。水問題を「自分事」として捉えるために、具体的に、ど

のようなことが大切だと思いますか。
    
 まず、自分が住んでいる川の流域を“楽しむ”ことが大事だと考えています。自分はどの川のそばに住んでいるのか、その川はど

こから始まって、どう海まで流れていくのか。そういったことを調べた上で、実際に川に行き、魚やカエルを見つけたり、遊んだ

りするんです。現場を歩く中で、自分たちが飲んでいる水は、どこの川から来ているのかを学んでいます。

あとは、災害のあった場所には“災害伝承碑”が設置されていることもあるので、それを子どもたちと見に行って、「うわっ、牛が

300頭も流されたんだね」みたいなことを確認しています。

日本では蛇口をひねれば水が出てきます。インフラが整えば整うほど、自分たちの生活と水の関わりというのは、見えにくくなっ

てしまう。だからこそ、見える範囲で、自分たちの生活と近い水を見に行くようにしているんです。

皆で一緒に“探検”をして、周りのものに対する自分の感性に磨きをかける。自分がかけている「色眼鏡」を取っ払い、目、耳、

鼻、指先の使い方をもう一度、学び直す。自然と自分のつながりを「感じる」。水や環境の問題を考える上で、そうしたことが非

常に重要だと思っています。

 

 

 

 

 

 


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