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〈信仰体験〉

ターニングポイント 絵本作家デビューした保健師

2021年10月3日

 

私は信じる。あなたの分も

 

 言葉は、時に勇気を燃やす種火にもなれば、心を傷つけるナイフにもなる。

上田雅美は、傷ついた心を癒やす“花束”のような言葉を紡ぎたいと願っている。

14歳。中学生の雅美の胸は高鳴っていた。

所属するバスケットボール部の練習試合。この2カ月前、チームメートから推されて

副キャプテンに。それまで以上に努力し、チームが一つになるよう努めてきた。

ベンチスタートだったが、応援しながら出番を待った。

残り5分。隣で応援していた仲間たちは雅美以外、全員がコートを駆け回っていた。

“私の出番は……”

雅美だけ交代の声がかからない。心臓の音が大きくなる。残り3分、2分、1分……

終了のホイッスル。

呆然としていると、仲間と目が合う。ハッとして、ニコッと笑う。「大丈夫だよ!」

帰り際、「上田のこと、忘れてた」と告げたコーチの言葉は、頭から消えなかった。

引退試合も出られたのは約10秒。仲間の流す涙とは違う、後味の悪さで、泣いた。

“頑張ってきたのに、なんで。私は、いてもいなくても、どっちでもいい人なんだ”

帰宅すると、一冊のノートを開く。心の中のもやもやを書きつづった。時に詩になり、叫びになった。小学生の時から続けてきた。

読み返すわけでも、誰かに見せるわけでもない。1ページ、2ページ書くと、気持ちがふっと楽になった。

あの日から10年。

雅美は看護師になっていた。

“誰かの役に立ちたい”。そう思って、高校卒業後は大学で学び、看護師になった。

だが、救急で運ばれてくる患者を前にすると、緊張して思うように体が動かない。仕事に行こうとすると、動悸が激しくなる。腸炎にも

なった。

心が折れ、退職。一人、部屋にこもった。

女子部の先輩が訪ねてきた。顔を合わせると、自然と涙があふれる。声を聞くと安心した。ため込んできた不安を話した。

じっと耳を傾けていた先輩は「雅美ちゃんにしかできないことがある。私は、雅美ちゃんを信じているよ」と。

前にも、そう言ってくれる人がいた。

『青春対話』で励ましてくれた池田先生。

「君には君でなければできない、君の使命がある」

会ったことはない。でも、一番、私のことを分かってくれる人。先生の言葉に触れると、心が温かくなる。

御本尊の前に座った。最初は卑屈になって、自分を責めた。

“どうせ私は何もできない”

祈っていると、友人の顔が浮かぶ。

大学時代、信心を始めた親友は、看護師になるという夢をかなえた。学校の養護教諭として活躍している同級生もいる。なのに、私だ

け……。自分をどうにかしたくなる。

“私の使命って何? 私にしかできないことって? 私だけ、私を諦めるのは、もう嫌だ!”

ノートを開く。大好きな池田先生の言葉を書き写した。

「自分で自分を励ませる人は、すてきな人だ。人のつらさも、わかる人だ。自分で自分を喜ばせる言葉を、強さを、賢さを! 落ち込ん

だ心を、よいしょと自分で持ち上げて! 自分で自分を好きになれないと、人だって愛せない」

祈っては書き、書いては祈った。だんだんと勇気が湧いてくる。

“そうだ、私は、いつも言葉に励まされてきた。支えられてきたんだ。今度は私が、同じように悩む人に、言葉を届けたい!”

そう思うと、挑戦したいことがあった。「絵本を出す」こと。絵本出版賞のストーリー部門に応募した。落選。でも挑戦を続けた。

仕事では保健師として働くようになった。高齢者宅などを訪問して、保健指導や健康管理を行う。

初めて先輩と訪問した。相手が矢継ぎ早に「買い物に行けないので、頼める?」「運動不足を解消したいんだけど、どうすればいい

の?」。何て答えたらいいのか分からない。先輩がテキパキと対応する姿に圧倒された。“私には無理だ”と、1週間でやめたいと思った。

でも、もう自分に負けたくなかった。専門書を開き、先輩に相談した。仕事前、訪問相手のことを一生懸命に祈った。何に困っているの

か、何を求めているのか。どこまでも寄り添うよう努めた。

ある日、担当した家族から言われた。「上田さんと会ってから、うちの人、笑顔が増えて。よく話すようになったの。あなたが担当で良

かった。本当にありがとう」

今年2月。雅美は、絵本『鷲鳥と女の子』を出版した。

自分に自信が持てない空想家の女の子が、鷲鳥との旅を通して成長していく物語。

雅美は思いを紡ぐ。

<かけがえのないものはあなたの中にある。それに気付くともう誰も羨む必要なんてないよ>

落ち込んで、自分を信じることができない時もあるかもしれない。でも、そんな時は、私が、あなたの分も、あなたを信じる。だって、

あなたは一人じゃないから。

<私は私自身が何よりも大切なものに思えるの。私の中にこそ希望はある>

(7月19日付)

 

 

うえだ・まさみ 長崎県出身。小学生の頃から、ノートに思いなどを書いて、自分を勇気づけてきた。保健師の仕事の傍ら、執筆活動も。昨年6月、第5回「絵本出版賞」
の絵本のストーリー部門で奨励賞を受賞。本年2月、『鷲鳥と女の子』(みらいパブリッシング)で作家デビューを果たす。県女子部書記長。

 

 

 

 

 

 

 


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