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〈危機の時代を生きる 創価学会学術部編〉

第15回 自然災害への備え

2021年9月4日

 

相次ぐ大雨、強大化する台風
まず「自助」から始めよう
九州大学名誉教授 小松利光さん

 

   国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」。

   自分が住む地域の洪水や土砂災害などの

   リスクを地図に重ねて見ることができる

 

 先月、西日本を中心に記録的な大雨が降り続き、各地で土砂崩れや

河川氾濫などの被害が発生した。頻発する自然災害にあって、命を守

るために心掛けるべきことは何か。「危機の時代を生きる──創価学

会学術部編」の第15回のテーマは「自然災害への備え」。防災・河川工学の専門家として長年、水災害を調査・研究してきた九州大学

名誉教授の小松利光さんの寄稿を紹介する。

 

 ここ数年、西日本豪雨や令和2年7月豪雨など、広い範囲で大雨による被害が相次いでいます。

今年8月の豪雨でいえば、佐賀県嬉野市では、半年分に相当する量の雨が、8日足らずで降ったことが分かっています。これだけの雨が局

所的に降ったのは「線状降水帯」が発生したからです。この言葉は最近、気象ニュースなどでも耳にする機会が増えました。実体は積乱

雲が連なったものです。

積乱雲は、夕立などの局所的な強い雨をもたらすもので、一般的には1時間程度で消えてしまいます。しかし、その積乱雲が前線などの

影響で断続的に発生し、同じ場所に流れ込んでしまうことで、バケツをひっくり返したような激しい雨が数時間も続いてしまうのです。

 

地球温暖化の影響

 線状降水帯は過去にも発生していましたが、近年、その頻度が増え、規模が大型化してきたのは、地球温暖化が関係していると考えら

れます。

そもそも雨の主な材料は、海から供給される水蒸気です。温暖化によって海水温が上がれば、海水面に接する空気も暖められ、それによ

り気温が上がれば、大気中の水蒸気量も増えます。特に日本近海の海水温は、地球上の全海洋の平均よりも2〜3倍速いペースで上昇して

いることが分かっています。そうしたことから、日本では年々、大型の線状降水帯が発生しやすい状況になっているのです。

また地球温暖化の影響は、それだけではありません。台風も強大化する傾向にあります。これまで赤道付近で発生した台風は、日本に接

近するまでに、近海で冷やされ、勢力が弱まっていました。しかし、その近海の海水温が高くなったことで、勢力が衰えずに接近し、上

陸するようになったのです。

こうした水災害に備えるため、各地では「流域治水」といった対策、防波堤や堤防の強化、ハザードマップの見直しなどが進んでいま

す。もちろん、そうした対策が進めば、安全性はある程度は高まりますが、それを過信することは危険です。

なぜならば、ハザードマップ一つを取っても、ある想定のもとに作られており、その想定を超える事態が起これば、災害に巻き込まれて

しまう可能性があるからです。また過去の災害に耐え、今も残っている防災インフラや山の斜面、崖などでも、“この先も大丈夫”という

保証はありません。

ましてや現在は、地球温暖化が進行する真っただ中にあるので、想像を超える災害はこれからも十分に起こり得ます。それはそのまま、

人命に関わる問題となります。だからこそ、社会においても、一人一人においても、“これで大丈夫なのか”と常に考え、可能な限りの準

備をしておくことが肝要です。

 

防災地図の確認を

 そうした中で、人命を守る要となるのは、「自助」の準備です。

1995年の阪神・淡路大震災の折、実に7割弱の方が自助で助かったという調査結果を踏まえれば、いかなる災害であっても「自分の命は

自分で守る」ことが基本であることは、言うまでもありません。そのためにも、まずは各自治体が作成しているハザードマップを確認

し、自宅やその周辺には、どのような危険性があるのかを把握し、避難場所や、そこまでの経路を確認しておくべきでしょう。

 

「自分は大丈夫」の楽観視は危険
日頃から訓練し 地域で声掛けも
前前の用心 勇気の行動 強き信心
学会活動で鍛えた心は いざという時の力

 

 

      衛星から撮影された台風。

      地球温暖化の影響で近年、

      日本に接近する台風は強大化している 

        ©Roberto Machado Noa/Moment/Getty Images

 

 避難場所については、自分のいる建物に倒壊などの心配がなく、津波や河川氾

濫、土砂災害の危険性が低い場所であれば、避難しない方が安全な場合もありま

す。なお、現在は、新型コロナウイルスの感染対策を十分に行った公的な避難場所が不足する恐れもあるので、近くの知人宅に一時的に

避難することも検討していただければと思います。

最近の事例では、感染を恐れるあまり、避難所に行くべきなのに、避難を躊躇する人もいました。しかし、それで災害に巻き込まれてし

まっては元も子もありません。自治体などの指示に従い、まずは目の前に迫る危機を回避する行動を優先してください。

また避難経路は、予期せぬ場所で崖崩れや道路の冠水などが起こる恐れもあるので、そうした時にも慌てないよう、複数のルートを想定

しておいてください。このほか、非常持ち出し袋を準備しておくことなども大切です。

 

早めの避難こそ鍵

 ただ、たとえ準備していても、いざという時に行動できなければ意味がありません。

水災害の場合は、発生の数日前には降水量や台風の進路など、多くのことが分かります。災害が迫っていることが分かったら、速やかに

安全な所に避難してください。

自宅にいる場合でも、危険が迫る前に2階や屋根の上など、早めに垂直方向に移動することが大切です。

西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県真備町では、2階建ての家に住んでいた方が1階で亡くなるケースが多く見られました。これを受

けて実施した調査では、1階に水が流れ込むと、家具が転倒したり、畳が浮いたり、停電が発生したりして、2階への避難が困難になるこ

とが明らかになりました。

したがって、水災害の場合は、気象情報を小まめにチェックし、「早めの行動」を取ることが命を守る鍵となります。このことを忘れな

いでいただきたいと思います。

しかしながら、いざ災害に直面すると、そのような行動に移させない方向に力が働くのが人間の心理です。

そうした特性の一つに「正常性バイアス」があります。異常な事態に直面した時、心の状態を保とうと、自分にとって都合の悪い情報を

無視したり、置かれた状況を過小評価したりして、楽観視してしまう心理的作用のことです。

例えば、河川氾濫の危険が迫り、避難指示が出ていても、“多分、大丈夫だろう”と軽く考え、結果として逃げ遅れてしまうケースです。

さらに、いざという時、一人で動きだすのは不安ですし、それが正しいのかどうかも分からないので、周囲が動くのを待とうとする心理

も働きます。「多数派同調バイアス」と呼ばれ、これも行動を遅らせてしまう原因となります。

 ◆◇◆

 では、こうした心理を乗り越えるため、何を心掛ければ良いのでしょうか。

一つ目に、自分にもそうした心理が働くことを十分認識した上で、素早く行動に移せるよう、日頃から訓練しておくことです。

今はコロナ禍ということもあり、なかなか避難訓練なども行われませんが、そうした機会があれば積極的に参加していただきたいと思い

ます。また、過去に被害があった事例などを参考に、“もし自分がその状況に置かれたら”と考える癖をつけ、備えておくことも大切でし

ょう。

二つ目に、その時が来たら真っ先に動けるよう、一人一人が避難行動の基準を持っておくことです。

気象庁は現在、住民が取るべき行動を直感的に理解できるよう、警戒レベルを5段階で発表しています。例えば、レベル3では避難に時間

のかかる高齢者や障がいのある方などが避難、レベル4では危険な場所から全員が避難をするように呼び掛けています。各自治体もこれ

に準じた警報を発表しますが、そうした情報を得た時点で、すぐに避難行動が取れるように意識しておいてください。

特に水災害の対策では、真っ先に避難行動を取る「率先避難者」の存在を重視しており、そうした人がいれば、それを見た地域の人も続

くことができます。そのタイミングが早いほど、多くの方も安全に避難できますので、有事の際は勇気を出して率先避難者になってくだ

さい。

三つ目に、近隣と声を掛け合うことです。

実は、避難行動を遅らせてしまう人間の心理を最も効果的に解決できるのが、地域の声掛けなのです。震度5強の地震に襲われた地域の

住民を対象とした調査では「どういう状態だったら逃げたか」という問いに対し、73%もの回答を得たのが「町内会役員や近所の人から

避難の呼び掛けがあったら」でした。

その意味でも、日頃から声を掛け合える絆を築いておくことが大切ですし、それはそのまま、地域で支え合う「共助」の力となります。

 

命をどう守るのか

 さて、日蓮大聖人は、門下の四条金吾に対して、繰り返し戒めておられたことがあります。それは「用心」という一点です。

「かまへて・かまへて御用心候べし」(御書1133ページ)

「よるは用心きびしく」(同1164ページ)

「さきざきよりも百千万億倍・御用心あるべし」(同1169ページ)

「心にふかき・えうじんあるべし」(同1176ページ)

御書をひもとくと、それは敵から命を狙われている時も、状況が好転した時も、変わることなく指導されていたことが分かります。

その上で大聖人は、金吾がそうした中で命を落とさず、生き永らえることができた要因として、「前前の用心といひ又けなげといひ又法

華経の信心つよき故に」(同1192ページ)という三つを挙げられています。

第一の「前前の用心」とは、普段からの備えを怠らないことです。

第二の「けなげ」とは、いかなる時も臆せず、勇気をもって行動する心です。

第三の「法華経の信心つよき」とは、広布への強盛な祈りです。それは、どんな状況にあっても決して希望を手放さないという信念であ

り、自他共の幸福のために尽くし抜く誓いでもありましょう。

もちろん、金吾の命を狙っていたのは人間であり、自然の脅威ではありません。しかし、「命をどう守るのか」という意味では共通して

おり、この仰せは災害時の行動に関しても重要な点を指し示していると思えてなりません。

 ◆◇◆

 その上で、私が思う学会員の強みは、普段の活動の中で、この三つを当たり前のように実践していることです。

池田先生はこれまで、事故を起こさないために事細かな指導をされており、学会員は、それらを学び合いながら、折あるごとに無事故の

重要性を確認しています。また会館運営や会合運営に携わる友は、そうした指導を心に刻み、“災害が起こったら、どう行動すべきか”を

常に考えながら任務に当たっています。

そうした訓練を重ねているからこそ、これまでも災害のたびに会館を一時的な避難所として開放するなど、それぞれができることを探

し、互いに協力しながら、勇敢に、迅速に、地域のために尽くしてきました。そして学会員一人一人は、日々の勤行の中で地域の安穏を

祈り、地域の中で困っている人がいれば進んで声を掛け、絆を結んでいます。

何より、こうした活動の中には、先ほど述べた避難行動を遅らせてしまう心理を乗り越える要素も、見事に含まれています。まさに、

日々の活動を通し、一人一人が災害時にあっても冷静に行動できる心を鍛えているのです。

 

さらに絆を強固に

 学会員一人一人が磨いてきた対応力や行動力は、コロナ禍、さらにはコロナ禍のもとでの自然災害の中でも生かされると感じていま

す。

災害時は、さまざまな情報が飛び交い、どれが正しい情報なのか、分からなくなることがあります。しかし、学会は聖教新聞を通して、

感染症の専門家による感染予防策や自然災害の研究者らのアドバイスなどを発信し、それを各地の同志が学んで地域の人々にも伝えてき

ました。また一人一人が人々の幸福を祈り、オンラインなどを活用して地域に励ましを送ってきました。こうした地域との絆を結ぶ運動

は、今後の災害に備える上でも極めて重要です。

これからは、自然災害がさらに頻発化・激甚化する時代となります。これまで以上に「前前の用心」が大切です。決して油断せず、今で

きる準備を行ってください。その上で、近隣の絆をさらに強固にする取り組みを進めていただきたいと思います。

その一歩一歩の努力は、必ずや自分や家族の命、そして地域の人々を守る力となるでしょう。今こそ、学会員一人一人の勇気ある活動が

必要とされているのです。

 

 こまつ・としみつ 1948年生まれ。工学博士。専門は防災工学、河川工学。九州大学工学部教授、同大学大学院工学研究院教授、特命教授、日本学術会議会員などを
経て現職。防災学術連携体幹事。日本工学会副会長。創価学会九州副学術部長。副本部長。

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者へのインタビュー等を収録している。

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