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勝ち鬨 四十六

 「荒城の月」の指揮を執る山岡武夫は、竹田の地に幾度となく足を運び、非道な僧に

敢然と抗議し、友の激励に走り抜いてきた。彼は、苦節の来し方と、山本伸一の渾身の

励ましが思い起こされ、熱いものが込み上げてきてならなかった。

仏法は勝負である。そして因果の理法も厳然である。

障魔の嵐を耐え忍び、広布に邁進してきた尊き仏子たちは、誇らかに胸を張り、頰を紅

潮させて熱唱した。

伸一も共に歌いながら、心で呼びかけた。

“皆さんは勝った! 創価の闘将として、広布の正義城を、よくぞ守り抜いてくださった。

さあ、出発だ! 一緒に旅立とう。二十一世紀のあの峰へ!”

やがて、合唱が終わった。

「ありがとう!」

伸一がこう言って、竹田の同志の勝利を讃えるかのように、「V」の字に両手を上げると、

「万歳!」の声が起こった。

「万歳! 万歳! 万歳!」

皆、手をいっぱいに振り上げて叫んだ。声は一つになって大空に広がった。まさに、民衆

の時代の朝を告げる勝ち鬨であった。

「私は、今日という日を、生涯、忘れません。皆さん、お元気で!」

伸一が歩き始めると、大勢の同志が、談笑しながら後に続いた。

空の上で、冬の太陽が微笑みかけていた。

しばらく行くと、彼は、足をとめた。

「今日は、私も、竹田の闘将である皆さんの写真を撮らせていただきます。そして、お一

人お一人の顔を、わが生命に永遠に焼き付けます。さあ、階段に並んでください」

伸一は、風景を撮影しようと手にしていたカメラを向け、シャッターボタンを押した。

皆の顔に、会心の笑みが浮かんでいた。

月の荒城は、栄枯盛衰を繰り返す世の無常を見続けてきた。今、その城跡は、陽光に映え、

常楽の幸風がそよぎ、凱歌が轟く、希望の歓喜城となった。

 

 

勝ち鬨 四十七

 山本伸一は、メンバーの姿をカメラに収めたあと、レストランのある駐車場に戻った。

バスに乗り換えて熊本に向かうためである。

バスの周囲は、本丸跡から下りて来る多くの人たちで埋まっていった。

伸一は、皆のなかに入り、声をかけた。

「長生きしてくださいよ! 必ず、幸せになってください!」

一人ひとりを励まし、握手を交わして、車中の人となった。

バスが動きだした。

「先生。さようなら!」

「ありがとうございました!」

「大分は負けません!」

口々に叫びながら手を振る。

伸一も、揺れるバスの窓から盛んに両手を振った。バスは次第に遠ざかり、カーブにさし

かかった。彼は反対側の窓際に移動し、手を振り続けた。

彼と同志の間には、目には見えずとも、固い絆があった。信の絆であり、久遠の誓いの絆

であり、広宣流布の師弟の絆であった。

伸一は、初訪問となる熊本県の阿蘇町(後の阿蘇市の一部)にある白菊講堂をめざした。

バスは、大分との県境を越え、阿蘇山麓を進んだ。やがて、彼方に、三つの凧が舞ってい

るのが見えた。近づくにつれて、凧には、それぞれ、「旭日」「獅子」「若鷲」が描かれ

ているのがわかった。伸一は言った。

「きっと、あの凧を揚げているところが、白菊講堂だよ」

午後二時、バスは講堂の正門に入った。車窓から、門の前の空き地で凧を揚げている青年

たちの姿が見えた。そのうちの一人は、学生服を着ていた。高校生なのであろう。

バスを降りると、出迎えた幹部に言った。

「苦労をかけたね。さあ、戦闘開始だ!」

熊本でも、学会員は悪僧による中傷の嵐にさらされ、理不尽な迫害に耐えて、戦い抜いて

きた。広布破壊の魔軍と戦い、勝ち越えるたびに、いや増して広布前進の加速度はつく。

 

 

勝ち鬨 四十八

 山本伸一は、すぐには白菊講堂に入らず、地元メンバーの代表らと記念撮影し、これま

での苦労をねぎらい、しばし懇談した。

また、凧を揚げてくれた高校生を呼び、心から励ましの言葉をかけた。本間雄人という県

立高校の三年生であった。

「凧を見たよ! 遠くからもよく見えました。寒かっただろう。ありがとう! 君も、未

来の大空を悠々と舞ってください」

こう激励し、講堂に入った。会長の秋月英介が出席して、自由勤行会が行われていた。

途中から入場した伸一は、会場にいた車イスに乗った若者を見ると、真っ先に、彼のもと

へ向かった。

筋ジストロフィーで療養所に入所している、高校一年生の野中広紀であった。病のため、

未来に希望が見いだせず、悶々とした日々を送っていたが、化膿性髄膜炎を乗り越えた男

子部員の体験を聞いて発心し、本格的に信心に取り組み始めたばかりであった。

彼の母親の文乃は、真剣に唱題する息子を見て、“自分も弘教を実らせて、山本先生を熊本

に迎えよう”と決意した。これまで彼女は、筋ジストロフィーの息子がいることを知ってい

る人には、仏法対話を控えてきた。御本尊の功徳を語っても、相手を納得させることはで

きないと思ったのである。

しかし、わが子の姿に励まされ、娘と一緒に、同じ病気で入所治療している子どもをもつ

母親に、勇気をもって仏法の話をした。

すると、意外な答えが返ってきた。

「挫けることなく、息子さんの闘病生活を支え、明るく元気に、確信をもって信仰のすば

らしさを語る姿に感動しました」と言うのだ。そして、入会を決意したのである。

悩みのない人生はない。生きるということは、「悩み」「宿命」との闘争といってもよい。

大事なことは、何があっても、御本尊から離れないことだ。勇気をもち、希望をもち、敢然

と祈り、戦い続けることだ。そこに人は、人間としての強さと輝きと尊厳を見いだし、共感、

賛同するのである。

 

 

勝ち鬨 四十九

山本伸一は、野中広紀の傍らに立つと、彼の体をさすりながら語りかけた。

「強く生きるんですよ。使命のない人はいません。自分に負けない人が勝利者です」

野中は、慰めではない、生命を鼓舞する励ましの言葉を、初めて聞いた思いがした。

さらに翌日、彼のもとに伸一から、バラの花が届いた。花を手に、生きて今日を迎えられ

たことに、心から感謝した。

彼が筋ジストロフィーの診断を受けたのは、小学校に入学する前であり、医師からは、

六年生まで生きることは難しいと言われた。入所した療養所から学校に通い、やがて、

通信制の高校に進んだ。療養所では、十九人の友が次々と亡くなっていった。

伸一の激励に、彼は決意した。

“自分の人生は、短いかもしれない。しかし、一日一日を懸命に生き、自らの使命を果た

し抜きたい”――病というハンディがありながら、強く、はつらつと、未来に向かって進

もうとする野中の真剣な生き方は、同世代の友人たちに、深い感銘を与えていった。

彼は、県内の高校から、文化祭で講演してほしいとの要請を受け、「生きる勇気」と題し

て、自分の闘病体験と抱負を語った。それは大きな感動を呼んだのである。

伸一は、白菊講堂の自由勤行会で、参加者と共に勤行したあと、懇談的に指導した。

「日蓮大聖人の仏法は、いかなる世代にも必要不可欠です。飛行機が大空へ雄飛していく

姿は青年時代であり、安定飛行に入って悠々と天空を進む様子は壮年時代といえる。その

間には、乱気流に巻き込まれ、大きな揺れや衝撃を受けることもあるかもしれない。

したがって、安全に飛行し、幸福という目的地に行くには、それに耐え得る十分な燃料と

強いエンジン、すなわち大生命力が必要となり、その源泉こそが信心なんです。また、軌

道を外さず誤りなく進むための計器、すなわち確かなる哲理が大切であり、それが仏法と

いう法理なんです」

 

 

勝ち鬨 五十

 山本伸一は、言葉をついだ。

「人生という空路を飛んだ飛行機は、やがて着陸の時を迎える。飛行機は着陸が最も難し

いともいわれている。いわば、人生でいえば、総仕上げの年代であり、まさに一生成仏へ

の滑走路に入れるかどうかです。この総仕上げの時を、いかに生きて、わが人生を荘厳し

ていくかが、最も大事なんです。

どうか皆さんは、年はとっても、心は青年の気概で、広宣流布のため、人びとの幸せのた

めに、完全燃焼の日々を送っていただきたい。生涯求道、生涯挑戦、生涯青年です」

彼は、こう話を結んだ。

「飾られていた白菊の花も、会場入り口の花も、窓際の花も、すべてに皆様の真心が染み

渡っている。その労作業に感謝と賛嘆の思いを託して拍手を送りたい。可能ならば、お正

月までこのままにして、来館される方を楽しませていただければ幸いです」

伸一は、この日、和歌を認めて贈った。

熊本県の女子部には――

 「白菊の その名の如き 乙女等が

      茜の夕日に 瞳ひかりぬ」

大分県竹田の同志には――

 「月光の 曲の聞ゆる 城趾に

      竹田の友の 笑顔嬉しや」
      
伸一の一行が阿蘇の白菊講堂を発って、熊本市にある熊本文化会館に到着したのは、午後

六時前であった。休む間もなく県幹部らとの懇談会が待っていた。

終了後、彼は、県長たちに言った。

「私が激励に訪れた方がよいお宅や、お店があったら、どんどん言いなさい。一軒でも、

一人でも多くの同志とお会いしておきたい。大きな飛躍を遂げていくには、一人ひとりの

同志にお目にかかり、悩みや疑問に耳を傾け、心から納得するまで対話することが肝要な

んです。そして、信心への確信をもって、同志の生命を触発するんです。個人指導とは、

人間を根底から蘇生させる真剣勝負の対話なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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