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暁鐘 三十六

四日の夕刻、山本伸一は、宿舎のホテルの会議室で、学生をはじめ、青年の代表ら約五十

人と信心懇談会を開催した。

メンバーの質問に答えながら彼は、指導、激励を重ねた。そのなかで強調したのは、制度

の改革といっても、自身の生命の変革が不可欠であるということであった。

立派な制度をつくっても、それを運用していくのは人間であり、肥大化していくエゴイズ

ムを制御する人間革命の哲学を確立しなければ、本当の意味での社会の繁栄はない。

彼は青年たちに、生命の世紀を開く“人間革命の旗手”として立ってほしかったのだ。

さらに伸一は、イタリアは青年のメンバーが多く、その両親などから、結婚観についても

ぜひ語ってほしいとの要請があったことを踏まえ、この問題に言及していった。

「結婚は、自分の意思が最重要であるのは言うまでもないが、若いということは、人生経

験も乏しく、未熟な面もあることは否定できない。ゆえに、両親や身近な先輩のアドバイ

スを受け、周囲の方々から祝福されて結婚することが大切であると申し上げたい。

また、結婚すれば、生涯、苦楽を共にしていくことになる。人生にはいかなる宿命があり

試練が待ち受けているか、わからない。それを二人で乗り越えていくには、互いの愛情は

もとより、思想、哲学、なかんずく信仰という人生の基盤の上に、一つの共通の目的をも

って進んでいくことが重要になる。

二人が共に信心をしている場合は、切磋琢磨し、信心、人格を磨き合う関係を築いていた

だきたい。もし、恋愛することで組織から遠ざかり、信心の歓喜も失われ、向上、成長も

なくなってしまえば、自分が不幸です」

人生の荒波を越えゆく力の源泉こそ、仏法である。崩れざる幸福を築く道は、学会活動の

最前線にこそある。広布のために流す汗は、珠玉の福運となり、その一歩一歩の歩みが、

宿命を転換し、幸と歓喜の人生行路を開いていく――ゆえに伸一は、信仰の炎を、絶対に

消してはならないと訴えたのである。

 

 

暁鐘 三十七

 山本伸一は、さらに、結婚観について語っていった。  

「近年は、世界的な傾向として、すぐに離婚してしまうケースが増えつつあると聞いてい

ます。しかし、どちらかが、しっかり信心に励み、発心して、解決の方向へ歩みゆくなら

ば、聡明に打開していける場合が多いと、私は確信しています。ともかく、確固たる信心

に立つことが、最も肝要です。  

よき人生を生き抜き、幸福になり、社会に希望の光を送るための信心です。ゆえに、よき

夫婦となり、よき家庭を築き、皆の信頼、尊敬を集め、仏法の証明者になることです」  

この夜、伸一は、スカラ座のバディーニ総裁の招きを受け、峯子と共に、クラウディオ・

アッバード指揮のロンドン交響楽団による、ムソルグスキー作曲「展覧会の絵」などの演

奏を鑑賞した。  

すばらしい演奏であった。彼は、この感動を、日本の市井の人びとに、ぜひ味わってもら

いたいと思った。彼が民音を創立した目的の一つは、民衆に世界最高の音楽・芸術と接し

てもらうことにあった。芸術も文化も、一部の特別な人のものではない。     

翌五日の正午過ぎ、伸一たち一行は、メンバーに見送られ、ミラノから空路、フランスの

マルセイユに向かった。  

伸一のミラノ滞在は、三泊四日にすぎなかった。しかし、彼と身近に接したミラノの青年

たちが、心に深く焼き付けたことがあった。それは、彼が、ホテルのドアボーイや料理人、

運転手、会社の経営者、学者など、すべての人に、平等にねぎらいや感謝の言葉をかけ、

丁重に御礼を言う姿であった。  

仏法では、万人が等しく「仏」の生命を具え、平等であると説く。まさに伸一の行動が、

それを体現していると感じたという。  

思想、哲学、そして宗教も、その真価は、人の行動、生き方にこそ表れる。  

友の幸福のため、社会のために、喜々として懸命に活動する姿のなかに、仏法はある。

 

 

暁鐘 三十八

 山本伸一の搭乗機は、右手に白雪を頂くアルプスの山々を望みながら、地中海沿岸のフ

ランス第二の都市マルセイユへ向かった。  

現地時間の六月五日午後一時過ぎ、マルセイユの空港に到着した一行は、エクサンプロバ

ンスのホテルで、直ちにフランスでの諸行事について打ち合わせを行った。  

さらに伸一は、トレッツにある欧州研修道場に移動し、午後六時から開催されたヨーロッ

代表者会議に出席した。これには、十三カ国の代表が集い、欧州広布に向けて、種々、

協議が行われた。  

この席で、ヨーロッパ各国が一段と力を合わせ、希望の前進を開始していくため、ヨーロ

ッパ会議議長の川崎鋭治のもと、新たにイギリスの理事長であるレイモンド・ゴードンと

ドイツ理事長のディーター・カーンが同会議の副議長に、日本で高等部長、男子部主任部

長などを歴任してきた高吉昭英が書記長に就任することが決議された。  

高吉は、高校生の時から人材育成グループの一員として、伸一が育んできた青年で、大学

院で学んだあと、本部職員となった。この人事は二十一世紀への布石であった。  

伸一は、参加者に訴えた。  

「今回の訪問は、ヨーロッパ新時代の夜明けを告げるためです。青年たちが、次代を担う

使命を自覚し、生命尊厳の哲学を自身の生き方として確立し、社会貢献の道を歩んでいく

ならば、現代社会にあって、分断された人と人とを結んでいくことができる。そこから、

平和も始まります。  

ゆえに私は、青年と会い、語らいに徹していきます。そして、行動を通し、心の触れ合い

を通して、皆の魂を触発していきます。  

人は、心から納得し、共感し、感激し、“よし、私も立ち上がろう!”と決意して、自発的

に行動を開始した時に、最大の力を発揮することができる。この触発をもたらしてこそ、

“励まし”なんです。  

それは、誠実と全情熱を注いでの対話であり、生命と生命の打ち合いです」

 

 

暁鐘 三十九

 欧州研修道場の北側には、サント・ビクトワール山(聖なる勝利山)がそそり立ち、青

空の下、太陽を浴びて、石灰岩の岩肌が輝いていた。“二十世紀絵画の祖”といわれるセザ

ンヌもこの山に魅了され、多くの名画を残している。

六月六日の昼前、山本伸一は、妻の峯子をはじめ、ヨーロッパ会議議長の川崎鋭治らと共

に、トレッツ市庁舎を訪問した。

ジョン・フェロー市長をはじめ、市議会議員ら約二十人が迎えてくれた。市長は、フラン

ス国旗と同じ、青・白・赤を配した儀礼用の懸章をつけて、あいさつに立った。

「山本先生をトレッツ市にお迎えできたことは、市民にとって大きな喜びであります。

先生が平和のために世界的に重要な働きをされていることも、また、その優れた思想も

著作を通して、よく存じ上げております。先生は、東西対立のなかで、核の危機を回避

するために奮闘されてきました。また、創価学会インタナショナルの国際的な平和運動

の指導者でもあります。

さらに、これまで、世界を代表する知性と対話を重ね、平和のために戦い、人間と人間

の交流を深める努力をされてきました。その先生が、世界各地に数あるSGIの会館の

なかで、わがトレッツの欧州研修道場を訪問してくださったことに対して、心より感謝

申し上げます」

市長の賞讃の言葉に、伸一はいたく恐縮しながら耳を傾けた。市長は、一段と力のこも

った声で、厳かに告げた。

「私どもは、誠実と忍耐、真心と熱意、旺盛なバイタリティーとエネルギーで行動され

る“平和の大使”である山本先生を、ここに名誉市民としてお迎えいたします」

拍手のなか、市長から伸一に、市のメダルと名誉市民章が贈られた。伸一は、市長の深

い理解と厚意に、心から感謝の意を表した。

この陰には、メンバーの誠実な努力と対話があったにちがいない。私たちの運動への理

解を促す力は、粘り強い真心の語らいである。

 

 

暁鐘 四十

 六日の午後、欧州研修道場では、山本伸一が出席して、ヨーロッパ広布二十周年を記念

する夏季研修会が晴れやかに開幕した。

これには、地元フランスの百人をはじめ、十八カ国五百人のメンバーが集った。

伸一は皆と厳粛に勤行し、参加者の多幸とヨーロッパ広布の伸展を祈った。そして、マイ

クに向かうと、こう提案した。

「本日六月六日は、二十一世紀への飛翔を遂げる研修会が開催された日であると同時に、

初代会長の牧口常三郎先生の生誕の日であります。この意義深き日を、『欧州の日』と定

め、毎年、この日を節として、互いに前進を誓い合う記念日としてはどうかと思いますが、

皆さん、いかがでしょうか!」

出席者全員が挙手をもってこれに応え、正式に6・6「欧州の日」が決定したのだ。

牧口は、伸一が入会する三年前に獄死しており、謦咳に接することはなかった。しかし、

伸一は、恩師・戸田城聖を通して、その人格、信心、実践、教育思想について学んできた。

また、牧口の著作を繰り返し読んでは、自身の大事な規範としてきた。

著書の中で牧口は、平和への道筋として、「軍事的競争」「政治的競争」「経済的競争」

から「人道的競争」に入ると予見している。

伸一は、人類の平和のために、今こそ世界に、「人道的競争」への確かな潮流を創ってい

かなくてはならないと、決意を新たにするのであった。

夏季研修会では、記念植樹が行われ、さらに、体験談大会に移った。信心によって前向き

な自分になり、病との闘いにも勝った西ドイツの女子部員の体験や、念願の音楽家として

活躍するイタリアの男子部員の体験などが披露され、大きな感動が広がった。

いずれの体験にも、勇気と挑戦による境涯革命のドラマがあった。

信仰とは、“絶望”“あきらめ”に打ち勝ち、前へ、前へと進みゆく原動力である。その前進

のなかで自身の生命は磨き鍛えられ、境涯を大きく開いていくことができるのである。

 

 

 

 

 

 


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